画像処理の基礎を勉強して傷検出してみた

数年前にそんな感じの研究をしていたという話です。

経緯

数年前、まだドローンが世間にあまり認知されていなかった頃に、社内でドローンを活用する橋梁点検システムが企画されました。橋梁の老朽化で点検需要増という社会問題に対し、ドローンによる遠隔点検+画像処理による点検自動化で低コストな点検を実現するという趣旨です。私はプロジェクトメンバーにアサインされ、主に画像処理による自動点検について研究していました。

自動点検の内容は、国交省が定める橋梁の点検要領が存在したのでそれを参考にしました。 橋梁の点検要領を端的に説明すると、橋梁を構成する各部材に対し、”目視”や”打音検査”などの現場検査より異常(クラック、剥離、破断など)を発見し、その異常が規定値を超えていないかを確認する、といった感じです。異常といっても種類が多いので、最も発生割合が高いとされる、コンクリートのクラック(ひび割れ)の検出を最初の目標としました。

やってみた結果

今であればAI・機械学習といった技術を利用するのが王道かと思いますが、当時はAIが本格的に流行る前でしたので、大学に相談し、大学と共同研究する形でクラック検出技術を独自開発することにしました。Canny法とか勉強しました。そしてできたのがこれ。

入力画像

検出結果

クラックの形状を抽出するアルゴリズムはそれっぽくできました。ただ、このアルゴリズムにはパラメータがあり、うまい具合に抽出するには目視しながら微調整が必要…なので、自動検出には至らず。この壁を乗り越えるには、やはり機械学習を取り入れるしかない、という結論になりました。

その後、機械学習を取り入れたクラック検出アルゴリズムを開発し、最終的には次の結果が自動で得られるようになりました。

クラックの形状と、幅が自動検出できています。ただこの画像は検出が上手くいっている方で、平均するとクラックの検出率は60%程度でした。精度の低さの原因は教師画像不足でしたので、画像データをもっと蓄積していけば精度が上がる可能性はあります。(研究はここまでで中断)

余談:橋梁点検の今はどうなっている?

傷検出技術に取り組んでいた当時、自治体にドローンを活用した橋梁点検について相談したことがあったのですが、その時は「自動化なんて現実問題として無理!目視が必須!」という感じであまり取り合ってもらえませんでした。では、ドローンが認知された今ならどうなんだろう? と思い、国交省の道路橋定期点検要領を確認しました。平成31年2月に改訂された資料が最新のようです。

https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/tenken/yobo4_1.pdf

2ページ目に以下の記述があります。

4. 状態の把握

健全性の診断の根拠となる状態の把握は、近接目視により行うことを基本とする。

【法令運用上の留意事項】

定期点検を行う者は、健全性の診断の根拠となる道路橋の現在の状態を、近接目視により把握するか、または、自らの近接目視によるときと同等の健全性の診断を行うことができる情報が得られると判断した方法により把握しなければならない。

国土交通省 道路橋定期点検要領より

…なんか小難しい表現で書かれていますが、要するにドローンを活用した点検も認められるようになったようです。
今後、実用化フェーズに移行していくでしょう。新技術が世間に認められて活用されていくのは良い事ですね。一技術者として嬉しく思います。

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