後戻りしにくいGIS選択を間違えると怖い
GISを導入しようとしても、使い始めるまでは運用後のトラブルはイメージはできない。。。ということはありませんか?
今回は、実際にシステム導入した後によくあるトラブルを紹介します。導入検討時から地図データやGISの特色を知って機能の選定やメンテナンスへ対処しておくといいですよ。
written by 澤田
地図を見ながら行いたい業務にGISを導入したら効率UP!と思っていたけど、実際に使ってみると利用者から不満も出てきます。今回はGIS導入後によくあるトラブルをまとめてみました。GIS導入は間違いなくても「地図やGISの特徴を理解しきれずに導入した。。。」「GISを維持する大変さを知らなかった。。。」こんなことに原因があることが多いです。
- GISの検討が本格的に進んできた
- GISを導入した後の社内クレームに備えたい
1.重要なところが見えなくて困っています
GISで使う地図にはオンライン型とオフライン型があり、それぞれでポイントが異なりますので、それぞれご紹介します。
①オンライン型でよくあるトラブル( Googleマップやオープンストリートマップなど)
オンライン型では、地図の内容は提供者次第なので、エリアによって地図の品質がバラつくことがあります。業務への利用で網羅的かつ解像度の高い地図が必要な場合はオンライン型は避けておいた方がいいかもしれません。
(具体例)
・「地図の質(解像度・情報量)を高めろ、と言われているが、手の打ちようがない
②オフライン型でよくあるトラブル (ゼンリン社住宅地図データベースなど)
オフライン型では、購入時点では最新ですが、時間が経つとともに当然ですが古くなっていきます。更新するには買い替える必要がありますが、予算の都合上、すぐには難しいこともあるでしょう。
・「◯◯さん宅がないんだけど、更新して」と言われても、すぐには更新できない
日々、社会では家が新築されたり壊されたり、土地開発。。。も行われています。GISで使う地図には業務で使える品質を求めますが、どちらにせよ、社会と地図データには“ずれ”はあります。ただこの“”ずれ“が大きくなってくると業務が滞ってトラブルとなっています。
ここでは、業務でよく使われる地図として、オフライン型のゼンリン社の「住宅地図」を使って、オフライン型につを深堀りしてみます。
ゼンリン社の商品として見ると紙の住宅地図帳がありますが、今回はそれをデータベース化した住宅地図データベース(Zmap-TOWNⅡ)のお話です。ゼンリン社では、住宅地図の鮮度を保つために調査員の方々の目視で地図と現況の相違を確認する「徒歩調査」等を行っています。その成果は現実世界にある建物・道路などの形状として定期的にメンテナンスされ、住宅地図は更新されています。最初は「住宅地図帳」を出版され、その後「ZMap-TOWNⅡ」もメンテナンス(概ねの市町村では毎年更新)されていきます。
ZMap-TOWNⅡのトラブル回避はオフライン型なので買替えればいいだけです。ただ、お客様によっては予算的に地図更新を見送らざる得ないこともあります。そして、この見送りを漠然と繰返すと、地図が古くなってしまい、街並みが違う、道路が違う等々は時間の経過とともに大きくなっていきます。地図を見たおかげで「現場で迷った」にもなりかねなっていきます。
なお、ゼンリン社では、Zerin Maps APIというオンライン型のサービスを始めています。これによって、オフライン型のいいところをオンライン型に持ち込むものと捉えられば、古い地図問題の解決ができる可能があります。
2.地図が重い(表示が遅い)から困っています
次は地図データが巨大すぎて地図描画に地図の描画に時間がかかってしまうことです。この描画時間が長くなることもGISのよくあるトラブルです。ここでデータ量が地図描画にどれぐらい影響があるのかテストしてみます(やったことは、オープンデータを取得してそこそこのPCでオープンソースのGISを使って地図描画しただけです)。
<地図描画の簡単なテスト>
- 使用したGIS:QGIS(version 3.22.14)
- 使用したPC:intel(R) Core(TM) i7-7660U CPU @ 2.50GHz、メモリ:8GByte、OS:Windows10 Pro 64bit
- 取得データ先:国土数値情報ダウンロードサービス
【https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/】 - 取得データ:国土数値情報 500mメッシュ別将来推計人口(H29国政局推計・shape形式版)【https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-mesh500.html#prefecture00】
※ダウンロードサイズ 108M、解凍後のサイズ 756M、今回のデータ件数は約47万件
早速表示してみました!
おおよそ日本全図が一枚の地図となるように表示してみると、表示を終えるまでに 約5秒 かかりました。
拡大してみます!
東京付近を縮尺1:2500000で表示するとこの表示を終えるまでに 約1秒 かかりました。
なお、どちらの地図でも少しでもPC画面をスクロールしたりすると画面が”ちらつき”ます。部分的な描画を繰返しながら全体が描画され、おおよそ約5秒、約1秒をかけて表示されます。描画時間は描画スペースに表示するデータ量に依存しています(ちなみに下の地図では人口の多さを色で表現しました。少ないものから多いものへ白色から赤色を濃くなるように変化させました)。
ストレス解消は地図で表示するデータを減らすしかない
データ量次第なので正直厳しい面もありますが、データ量を抑えるにはお客様の業務シーンに合わせたデータ量の少ないものを選ぶこととなります。例えば、今回のテストでいえば、メッシュサイズの大きなデータもダウンロードできますので、こちらを選択すれば、地図に表示されるデータは単純に1/4に削減されますので描画速度は改善します。
✖:500mメッシュ別将来推計人口
〇:1kmメッシュ別将来推計人口
それでもダメなときは。。。ダウンロードデータは無いので、データを統合する(今回は500mメッシュを100個まとめて5㎞メッシュのデータを作り出す、ちょっとハードルは高めです)ことも考えられます。
3.GIS開発の学習コストが高くて困っています
最後は、GISを使い続けるうえで出てくる不具合修正や追加開発を支える人材の確保は難しいとお伺いします。今はヒトがいなくて対応ができない、対応に時間がかかる等、GIS開発を支えるヒトが原因となって発生するトラブルです。なぜ、人材を確保し続けることが難しいか?理由は大きく言えば2つです。
GISアプリケーションを開発する際にはGIS機能をアプリケーションで使用するためにGISライブラリーを使用します。このGISライブラリーを一般的にGISエンジンと呼びます。
①GISに地図機能を提供するGISエンジンはいろいろある
GIS開発では、GISに地図機能を提供するためにはGISエンジンを使いこなす必要があります。このためGIS導入時には開発者は採用したGISエンジンについて熟知していきます。しかし、導入から時間が経つと、GISエンジンのリプレースをしなければならない時もきます。GISエンジンの種類は多くはないものの、特にGISメーカーを変えるとGISエンジンの仕組みが違いすぎて、これまでの経験は全く役に立たなかったとの声もお伺いします。
②GIS開発には地図技術も必要になる
GIS開発では、GISエンジンを使いこなすことに加え、“地図に関する技術”を要します。前者は優れた開発者であれば問題とならないですが、後者はその開発者がこれまで必要としてこなかった地図の技術とすると、その習得に時間がかかることが多いです。最近のIT界隈では人の動きは流動的なこともあって、GIS導入を支えた当時の開発者がいない(退職した/別のプロジェクトで手が離せない等)ことがあります。そして、新たな開発者を育成する時間やコストが掛かりすぎて、最悪の場合は改修・改善ができないGISはトラブルになるといった声もお伺いします。
GISの機能を使いこなすためには「独特なGISエンジンを理解しなければならない」「GISに関わる地図技術を理解しなければならない」となると、GISを支える人材確保は高コストになりがちです。また、安定稼働のGISでも万が一に備えた「保守メンテナンス」ができる人材がいないと、常にトラブルが発生する可能性すらあります。
そんなときに、裏技的な対処法があります(解決策ではありません)。
ずばり、人材で困ったときは、GISメーカー/ベンダーを頼りにしよう!です。技術蓄積は大変だ!GISエンジンを使いこなすのは大変だ!で人材不足となってしまっているとき、GISメーカー/ベンダーの営業担当へ、まず相談してしまいしょう。 GISメーカー/ベンダーの営業担当は、GISコンサルタントとして活動している場合も多いです。
困ったときには、いつでも相談できること、相談できる(しやすい)ことが重要ですので、GISエンジン選定時には最も気を付けなければならないことの一つとして認識しておきましょう。
今回は、GIS界隈でよく聞くトラブルを中心にまとめてみました。
GISメーカー/ベンダーには扱うGISエンジンによって表示する地図の得手不得手もありますし、サポート体制に違いがあります。開発されるGISで扱う地図データ、システムの将来性に備えるうえでの対応の良さ、こういったことを踏まえてGISメーカー/ベンダー選びをしましょう!